美術科<2年制>

染織コース / Dyeing & Weaving

教員インタビュー

空間を遊ぶココロ

大谷 千恵 准教授

染織コース
染織コース主任

本藍染めへのこだわり
「学生たちに本物の美しさを感じ取ってもらいたいから、本藍染めにこだわっているんです」深い藍色に染まった糸をさばきながら大谷先生は熱く語った。毎年、学生たちとキャンパスの片隅で藍の種を撒き栽培し『藍の生葉染め』をしている。また藍染めの要となる染料の『スクモ』を元に手間と時間をかけて本格的な藍建ても行っている。その藍甕は染色実習室にある。「本藍染めは時を経るとともに色が冴えるのです。今は化学染料で簡単に藍染めもできるんですが、染色は自然を染めることが原点ですからね。こんな面倒な藍建てをしている大学も、もう珍しいでしょう」
染色に入ったきっかけ
「子供の頃、朝顔やツユクサの色が変わるのが面白くて不思議でね。それで染料に興味を持つようになったんです」ただ最初から工芸分野での染色を志したわけでなく、染料の研究をしたいと理学部系への進学を夢見た。しかし『無』から『有』を生み出す創作という作業に興味を惹かれ、工芸としての染色にすっかりはまってしまったのだ。染色を始めて4年目には日展、日本現代工芸美術展、光風展に初入選した。着物作家への道も開かれていたがあえて染色作家の道を選択した。「売れ筋を意識する着物デザインより、琴線に触れる感動を創作したかったから」更に作家として前進しようと志した。その後作家活動はヨーロッパ・アメリカへと広がった。
日々の感動をカタチにあらわす
「寄せては返す波、波間に浮かび漂う泡沫、そして泡は大空へ飛翔していく。混沌とした海と果てしない空、そんな刻々と変貌していく自然現象がこの作品(右写真)のモチーフです」海辺を歩いていて、何億年も前に隆起したと思われる海岸や崖の美しさに心を打たれた。ここ十数年、作品のテーマは海岸の壮大な自然造形を表現している。「風景がすっーと自分の心の中に入ってくるのがわかりました。その風景は長い地球の歴史の中で言えば点なのです。隆起した海岸や過去に存在したであろう生命の痕跡に心がかきたてられて」そして学生たちも自然に対する素直な感動を表現して欲しいという。「20歳前後は、一生で一番感性が育つ時期です。日常生活の中で魅了された光景があれば、必ずスケッチしておくことを心がけて欲しい。日本は四季折々の自然のなかで糸を紡ぎ、布を染めながら美を託してきたのですからね」
染織は日本の伝統的な優れたアート
奈良芸の教員に就いて30年近く経つが、染織には昔から真面目で熱心な学生が多いと言う。「染色は根気が要る作業が多いのです。失敗しても消しゴムが使えず上から描きなおすこともできません。不自由で面倒なプロセスを踏まなければ仕上がりません。だから最後までやり通すという強い意志が必要です」
一方、面倒な制約やプロセスを活かし又活かされることで、微妙な色やカタチを展開できる面白さも生まれる。「染色は仕上げの段階で不純物を洗い流す水の洗礼を必ず受けます。思い通りの発色に仕上がった瞬間は、一発勝負のような醍醐味があります」
日本の染織美術は世界に冠たるレベルの高さを誇る。「日本の伝統である染織アートを発信できる学生が一人でも多く育って欲しいという思いで、これからも指導を続けていきたいと思っています」

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